(掲載:2012/6/24)
慶應技術士会は、2011年12月17日(土)に、「学生と技術士との対話会」を開催いたしました。この活動は、慶應義塾大学の学生(主に理工学部4年生/修士1年生)に、現在、企業、研究所、大学等に勤務している会員達が、技術士資格の紹介と啓蒙活動をするため、学生と懇談しながら、技術士とは?という質問に答える対話会です。今年で3回目になります。
まず石井幹事(慶應20期生、機械科卒業1962年)より開会挨拶がありました。
「皆様は、卒業すると、おそらく技術者(エンジニア)としての道を歩まれることになると思いますが、技術士は、技術者として世界で通用する最高の資格であり、ぜひチャレンジして目指していただきたい。」との激励がありました。
次に、理工学部志澤教授より、参加会員、学生諸君に御挨拶がありました。
「機械工学科教育検討委員会委員長の志澤です。当委員会は、JABEEを推進するためのスパイラルアップ組織であります。JABEE活動の一環として、より推進するべく、諸先輩方とお付き合いしております。本日は、お忙しい師走の中、お集まりいただきまして、ありがとうございました。本日は、2年生から3年生、4年生、修士、博士の学生などを募集しまして、6名の参加となりました。」
「学生諸君は、JABEE認定を受ければ、1次試験を免除されます。登録すれば技術士補となります。将来早いうちに、若いうちに2次試験を受け、技術士になってもらい、優秀な技術者となって、日本で世界で活躍してほしいという願いがありますが、学生諸君は、まだ資格取得に際して、さほど、なるべく早々に技術士になろう、という意識はまだ醸成されていない、と思います。」
「というのは、技術士というのが、どういう資格なのか、この資格に何ができるか、何が魅力なのか、まだ具体的なイメージが掴めていないからだと思います。ですから、ぜひ、この対話会でKEIOのOB、かつ技術者である大先輩諸氏から、直に経験談を聞いて、イメージを膨らませてほしい。毎年、本対話会で話を聞いた後では、技術士に対する学生の印象が明らかに違う。ぜひ有意義な時間を過ごしていただきたい。」との御挨拶がありました。
続きまして、慶應技術士会の花谷会長より、初頭挨拶がありました。
「慶應10期生の花谷です。昭和27年に慶應大学の予科に入学いたしました。現在と世情が大きく異なり、幼年・幼少期は戦中でありました。航空士官学校の学生の時、終戦を迎えました。それまでは、仏語を勉強しておりましたが、慶應に入学後、英語を勉強する機会に恵まれ、熱心に勉強し、それが後々の海外での仕事に大いに役立ちました。」
「卒業後、製紙会社に入り、機械の分野で技術士を取りました。大学の勉学と併せまして、この資格が、海外でのビジネスに大いに役立ちました。」
「慶應技術士会は、2007年7月10日に設立準備会を発足し、関係各位、大学殿のご尽力の元、平成21年4月18日に設立総会を開き、創設の運びとなりました。このときには、38名の入会者でしたが、その後、本年11月には、会員数111名となりました。しかしながら、大学技術士会の会員規模は、早大380名、武蔵工大375名、中央大160名、東工大130名、大阪工大861名、となっております。これは建設部門が多いことにもよります。されど、慶應技術士会は、これから、若い世代も奮起し、もっと伸びて、会を盛り上げていただきたい。」
「海外では、名刺に、Professional Engineer(プロフェッショナル・エンジニア)として、名前が書ける。ワンランク上の技術者としての自負もあるし、周囲がそう見てくれます。若くても話を聞いてくれる。私は、特許の売り込みも行いました。資格があると、技術相談、会合出席、執筆活動、等々、対外的な仕事にも、声がかかるようになります。当方、当年とって83歳であるが、1日1万歩を目標に歩いている。学生諸君も、健康に気をつけ、これから頑張っていただきたい。」との挨拶でした。
次に、対話会に参加する会員10名の簡単な自己紹介がありました。
その後、学生2人対会員3人に分かれ、今年の対話会が開始となりました。
例年のように、慶應義塾大学生協殿にご協力いただき、ケーキと珈琲を喫食しながらの、リラックスした雰囲気の中で、会は進行いたしました。
以下に、ごく一部ではありますが、その内容を、対話形式で紹介いたします。
技術士資格について、以下のような質問がありました。
Q1:取得しようと思ったきっかけは
Q2:具体的な勉強方法は
Q3:取得してからのメリットは
Q4:取得して周囲(職場・顧客等)の評価は変わったか
また、技術士資格にかかわらず、学生から、諸先輩に対して、就職に至るまでの経緯などについて質問がありました。
Q5:学生のときに(卒論・修論等で)やっていたこと(専門)と、就職してからの 仕事に乖離(かいり)はあったか、また、そのとき悩みや迷いはあったか
Q6:技術者以外の道を考えたことがあったか
Q7:会社に入ってから、一つの仕事をずっと続けて、それを極められるか
会員からは、以下のような回答がありました。(Aの番号=Qの番号)
A1:就職した会社で、新入社員の研修会があった。グループ討論があり、技術士資格の話題が出て、そのとき取得しようと思った。
A1:取得すると、月手当と合格報奨金が出るので、それが動機の一部であった。また、建設業界なので、一級建築士など、資格が重視される業界であり、技術士があると、仕事上メリットが多い。
A1:技術者、学者、研究者など、あなた方には、未来の道は様々あるが、早くに「自分の、これで行こう」という分野を決めると、自然と取得を考えるようになる。自分は、学生時代に特許を2件取った。若いときの「発明したい」という意欲、技術(者)を極めたい、さらに、アメリカ等、海外を相手に活躍したい、という気持ちが、取得を後押しした。近年、宇宙・情報分野など技術は著しく進歩しており、いまなお、自分の知的好奇心を刺激している。
A1:入社後、エンジンを扱う部門に配属されたが、そこの先輩に触発された。
A2:独学。通信教育も適時活用した。日本技術士会のセミナーも活用した。
A2:独学。今は、大きな書店に本が結構、揃っている。技術士コーナーもある。継続していた情報処理技術者試験の勉強も、役立った。面接は、会社の先輩に、ご指導いただいた。
A3:資格に恥じない仕事をしようという心構えになる。プロフェッショナルとしての心構え。人的ネットワークができるようになる。
A3:これから就職しようとするあなた方には、まだ関心が薄いかもしれないが、仮に転職しようとしたとき、技術士資格を応募用件にしている場合がある。国家・地方公務員の中途採用の応募用件になっている場合もある。建設関連では、管理技術者には、技術士資格が必要な場合がある。会社の吸収・合併や、部署の統廃合などで、やむおえず職が変わる、という意味での転職の場合もある。
A3:技術者間のコミュニティーで、良き人材に会える。技術士資格がないと、会社として取り扱うことができない設備等があり、企業活動に必要な人材となれる。
A4:ベテランの一級建築士に、(技術士が入った)名刺を出すと一目置かれる。自分が若くても、対等に話を聞いてくれる。
A4:他社(たとえば製造会社)に、開発・設計の立場から、非常に技術的に鋭い提案をできるようになる。
A5:乖離はある。自分のケースでは、学生のときに専門でやっていたことと、会社に入ってやらなければいけないことは、まったく別であった。新人若手の頃、(建設)現場へ出たこともあった。が、そういう経験は、ムダではなく後になって他へ応用可能であり、大変役立った。
A5:職種、職域が変わっても、技術士資格を取得するまでに纏(まと)めた過程なり、プロセスは、他の分野でも応用が利く。機械/化学/建設/情報、等々、どんな仕事でもよいが、仕事の「切り口」「断面の見え方」が変わってもその本体は、共通する部分が多々あり、資格を取得したという証(あかし)、意識の高さ、努力の過程は、本人の素養に成るし、それを他者は見ている。
A6:自分のことを振り返ると、業界を(技術者のみと)絞りきれずに、TV局をディレクター職で受けたこともあった。人の興味や関心というのは、時の移ろいとともに、変わることがある。今の(就職する前の)時点では、エンジニアの職域では技術士という有用な資格がある、という認識であっても、それはかまわないと思う。
A7:会社に所属して、同じ仕事を何年も続けることは、今の時代は難しい。会社というのは、社員の所属部署を変えることは多々あるし、今は、会社自体が、(吸収・合併等で)変わってしまうことがある。CRTモニタから液晶TV、携帯電話からスマホなど、従来、技術/市場標準、あるいは売れ筋であった商品が、数年経つと、劇的に変わってしまうことがある。現代は、変化のスピードが早い。
A7:海外を舞台にしていると、いままで、日本でやったことのない、いわば前例のない仕事を、海外で完遂しなければならないことがある。自分の場合は、北欧を対象とした技術移転であった。そういう場合は、従前の経験を踏まえることも大事だが、それだけでは十分でない。人知れず影で猛勉強して、周囲を納得させ得る意見を言う、という姿勢・行動力が大切である。
以上のように、今年も闊達(かったつ)に、学生・会員間で意見交換がなされ、2時間の対話会は時間一杯まで進行し、惜しくも終了となりました。学生諸君には、限られた時間の中ではありますが、技術者(エンジニア)という仕事の魅力、技術士資格のメリット、働くことの楽しさと厳しさ、等々が伝われば、と思います。一方、会員諸氏は、矢上の学び舎にて、後輩諸氏と机をひとつ挟み、直に向き合い、話を交わして、今まで記憶の片隅にあった若かりし頃の出来事や、情熱、当時のひたむきな感情を思い出すことがあったかもしれません。